高野山にほど近い、和歌山県との境の山あいに、野迫川村がある。村を通る県道のそば、標高九百八十メートルのところに、「雲海景勝地」と呼ばれる展望の場所がある。幾重にも重なる山並みを見渡す場所で、奈良県の景観資産にも選ばれている。
雲海が現れるのは、前の日に雨が降り、晴れて、風の弱い朝だという。秋は、朝晩の冷え込みが強くなり、そうした朝が訪れやすい季節とされる。条件がそろった朝、谷という谷が白い雲に埋まり、遠い山々の頂だけが、島のように浮かぶ。日が昇ると、雲の海はやわらかな金色に染まり、朝の八時ごろまでには、少しずつほどけていく。
そうした条件がそろわない朝もある。谷には雲ひとつなく、いつもの山並みが、朝の光の中に、静かに重なっているだけだ。
人生において、よく「○○が出来たら、××しよう。」とか、 「□□がこうしたら、私も△△しよう。」など、 ものごとに条件をつけてしまいがちである。
しかし、それは自分の人生を非常に窮屈にすると共に、 見境がなくなることにつながる。
その条件が達成出来ないと落ち込み、 又仮に達成できたとしても、もっともっと、と満足できない。
大事なのは、無条件で他人や自分を認めたり、 無条件で日々に感謝することだ。
そうすれば、驚くほどあなたは苦しみから解放されるだろう。
日が高くなり、展望の場所をあとにする。雲の海が広がる朝も、広がらない朝も、山並みは変わらずそこにあり、朝の光は、同じように谷へ届く。野迫川の山あいに、今日も静かな一日がはじまっていく。